ＨＥＲＯ＠映画の森てんこ森

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ＨＥＲＯ　(2002)

HERO (英題) / 英雄 (原題)

　映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO (英題) / 英雄 (原題) 』をレヴュー紹介します。

　映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』を以下に目次的に紹介する。
■映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』のポスター、予告編および映画データ
■映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』の解説
　ネタばれをお好みでない方はこの解説をご覧下さい。
■映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』のスタッフとキャスト
■映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』の＜もっと詳しく＞
　＜もっと詳しく＞は映画『ＨＥＲＯ』の「テキストによる映画の再現」レヴュー（あらすじとネタバレ）です。※ご注意：映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』の内容やネタバレがお好みでない方は読まないで下さい。
■映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』の結末
■映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』の更新記録

>>「映画解説・レヴュータイトル一覧表」へ（画面の切り替え）

幸の鑑賞評価：８つ星　

■映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』のポスター、予告編および映画データ

ＨＥＲＯ

ポスターは Jet Li 公式サイトより

Links:	Official Web Site
Trailers:

上映時間 Runtime：	2:00
製作国 Country：	香港／中国 Hong Kong/ China
製作会社 Production Company：	Beijing New Picture Film Co. [cn] Elite Group Enterprises [hk]
全米配給会社 Distributer：	Miramax Films [us]
香港初公開 Release Date：	2002/12/19
全米初公開 Release Date：	2003/12　予定
日本初公開 R. D. in Japan：	2003/08/16　予定
日本公開情報：	ＦＯＸ
ジャンル Genre：	アクション／歴史劇 Action / Historical
MPAA Rating 指定：	Rated PG-13 for stylized martial arts violence and a scene of sensuality.
日本語公式サイト
http://www.hero-movie.jp/phase2/

●スチルはnostalgia.com、予告編はcinemaclock.comより許諾をえて使用しています。
Filmography links and data courtesy of The Internet Movie Database & Nostalgia.com.
Filmography links and data courtesy of CinemaClock Canada Inc.

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■映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO / 英雄』の解説

　映画『ＨＥＲＯ　(2002) HERO (英題) / 英雄 (原題) 』は、中国では 2001 年 8月に制作に取り掛かり、2002 年 1月下旬に完成。香港では 2002 年末に既に封切り。『ＨＥＲＯ』は $30,000,000 以上（約 33 億円）という中国史上最高の制作費をかけただけあって、リリース後の興行成績も大成功という。『ＨＥＲＯ』主役のジェット・リーは最初の三ヶ月間ほどで自分のシーンを撮り終え、『ブラック・ダイヤモンド (2003) CRADLE 2 THE GRAVE 』やモーガン・フリーマン Morgan Freeman と共演の『ダニー・ザ・ドッグ　(2005) UNLEASHED / DANNY THE DOG 』とますます出演に恵まれて大忙しだろう。
　『ＨＥＲＯ』は中国の始皇帝と暗殺を企てる者たちのストーリー。ジェット・リーを筆頭に、共演のトニー・レオンとマギー・チャン、チャン・ツィイー、ドニー・イェンと言ったアジア最高峰の役者を揃えて、中国映画界の意気込みが感じられる。ロケも雄大で美しく、本格武術と幻想的なアクションも観応え有って『ＨＥＲＯ』お勧めです。

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【『ＨＥＲＯ』のスタッフとキャスト】

監督：チャン・イーモウ　Zhang Yimou　張芸謀　(Directed by)
アクション監督：チン・シウトン　Ching Siutung　程小東　(choreographer)
製作：ビル・コン　Bill Kong　江志強　(producer)
　　　　チャン・イーモウ　Zhang Yimou　張芸謀　(producer)
　　　　フィリップ・リー　Philip Lee　(line producer)
脚本：リー・フェン　Li Feng　李馮　(Writing credits)
　　　　チャン・イーモウ　Zhang Yimou　張芸謀　(Writing credits)
　　　　ビン・ワン　Bin Wang　斌王　(Writing credits)
撮影：クリストファー・ドイル　Christopher Doyle　(Cinematography by)
編集：アンジー・ラム　Angie Lam　林安兒　(Film Editing by)
衣装：ワダエミ　Emi Wada　和田恵美　(Costume Design by)
音楽：タン・ドゥン　Tan Dun　譚盾　(Original Music by)
　　　　フェイ・ウォン　Faye Wong　王菲　(song)

出演：ジェット・リー　Jet Li　李連杰 as 無名 Nameless /The Silencer
　　　　トニー・レオン　Tony Leung　梁朝偉 as 殘劍 Broken Sword
　　　　マギー・チャン　Maggie Cheung　張曼玉 as 飛雪 Flying Snow
　　　　チャン・ツィイー　Zhang Ziyi　章子怡 as 如月 Like Moon
　　　　チェン・ダオミン　Chen Dao-Ming　陳道明 as 秦国王 The King of Qin
　　　　ドニー・イェン　Donnie Yen　甄子丹 as 長空 Sky
　　　　パイ・シウチェン　白石千 as 六指鉄手
　　　　チェン・ティエンヨン　鄭天庸 as 飛雪の老しもべ

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＜もっと詳しく＞

ストーリー展開の前知識やネタばれがお好みでない方は、読まないで下さい。

■映画『ＨＥＲＯ』の「テキストによる映画の再現」レヴュー
　私は『ＨＥＲＯ』は日本公開前に日本語字幕スーパーなしの中国語で観たので、わかる範囲でレヴューします。映画データについては調査した時点と公開される時点で異なる場合があります。本作の内容については、語学力と経験・常識不足のため、間違いや勘違いや適切でない表現があるかもしれません。ジェット・リーが大好きなので、香港まで観に行ってその時点で書いています。従って、ストーリーの一部は解釈できていません。日本公開前後に何通かメールを頂きましたが、感動のイメージをお伝えする意味で敢えてそのままにします。どうかご理解賜りますようお願いいたします。また、リンクやメールをいただく場合はここを必ずお読みくださいますように。
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【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第01段落】　　
『初恋のきた道 (1999) 我的父親母親（原題）／ THE ROAD HOME （英題）』
『ＬＯＶＥＲＳ　(2004) 十面埋伏 (原題) / HOUSE OF FLYING DAGGERS (英題) 』
『単騎、千里を走る。　(2005) 千里走単騎 (原題) / RIDING ALONE FOR THOUSANDS OF MILES (英題) 』等のチャン・イーモウ監督、
『グリーン・デスティニー (2000) 臥虎藏龍／ CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON ／ WO HU CAUG LONG 』製作ビル・コンと音楽タン・ドゥン、
『少林サッカー (2001) 少林足球／ SHAOLIN SOCCER ／ KUNG-FU SOCCER 』のアクション監督チン・シウトン、
『マスター・オブ・リアル・カンフー／大地無限 (1994) 太極張三豊／ THE TAI-CHI MASTER ／ TAI-CHI 』のフィルム編集アンジー・ラム、
『宋家の三姉妹 (1997) 宋家皇朝／ THE SOONG SISTERS 』衣装のワダ・エミ等の豪華スタッフが主役ジェット・リーを支えている。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第02段落】　　共演も
『花様年華（かようねんか） (2000) 花様年華／ IN THE MOOD FOR LOVE 』出演のマギー・チャンとトニー・レオン、彼はこの作品でカンヌ国際映画祭男優賞に輝く。『西太后 (1984) 垂簾聴政（原題）』出演のチェン・ダオミン、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝／アイアンモンキーグレート (1996) IRON MONKEY 2 』出演の武道家俳優ドニー・イェン、『初恋のきた道』『グリーン・デスティニー』
『ラッシュアワー２ (2001) RUSH HOUR 2 』と彗星の如く現れたチャン・ツィイーといったスター達が芸を競う。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第03段落】　　中国の至宝、主演ジェット・リーに関しては、
『少林寺 (1982) 少林寺／ THE SHAOLIN TEMPLE 』
『少林寺２ (1983) 少林小子／ SHAOLIN TEMPLE 2 ／ KIDS FROM SHAOLIN 』
『阿羅漢（あらはん） (1986) 南北少林／ MARTIAL ARTS OF SHAOLIN 』
『ラスト・ヒーロー・イン・チャイナ／烈火風雲 (1993) 黄飛鴻鐡雎門蜈蚣 CRAWS OF STEEL ／ THE LAST HERO IN CHINA 』
『マスター・オブ・リアル・カンフー／大地無限　(1993) 太極張三豊 (原題) / THE TAI-CHI MASTER (英題) 』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ＆アメリカ／天地風雲 (1997) 黄飛鴻之西域雄獅／ ONCE UPON A TIME IN CHINA & AMERICA 』
『リーサル・ウェポン４ (1998) 致命武器 4／ LETHAL WEAPON 4 』
『ロミオ・マスト・ダイ (2000) 致命羅密欧／ ROMEO MUST DIE 』
『キス・オブ・ザ・ドラゴン (2001) 猛龍戦警　龍吻／ KISS OF THE DRAGON 』
『ザ・ワン (2001) 救世主／ THE ONE 』
『ブラック・ダイヤモンド (2003) 同盜一撃／ CRADLE 2 THE GRAVE 』
『ダニー・ザ・ドッグ　(2005) UNLEASHED / DANNY THE DOG 』
『ＳＰＩＲＩＴ (2006) 霍元甲 (原題) / FEARLESS (英題) 』をどうぞご参照下さい。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第04段落】　　真っ赤なスクリーンに「英雄」の漢字が大きく出て始まるオープニング。その後、映画の時代背景が数行にわたって表示解説される。中国語だから、漢字を必死で目で追って、大体解ったのはこんな感じ。＜・・・今から 2000 年以上も前のこと、中国は戦国時代で、七つの国に分かれていた。秦・趙・韓・魏・燕・斉・楚である。七国は主導権を争って戦い、その中で秦が最強だった。秦王の政は天下を統一することを欲していたが、六国からの刺客に狙われていた。最大の刺客が三人いた。「殘劍」、「飛雪」、「長空」だ…。＞　歴史的に見ると、秦国では荘襄王が紀元前 246 年に没して息子の政が王に就いた。 B.C. 221 にこの秦王の政は天下を統一し、「始皇帝」と称すのだが、この映画はその直前のストーリーと思っていいだろう。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第05段落】　　秦（しん）は中国最初の統一王朝。周代の諸侯国の一、戦国七雄の一として渭水（いすい）盆地に進出。紀元前四世紀以降急速に発展し、周室を討ち、始皇帝の時、六国を滅ぼして天下を統一（B.C. 221年）したが、三代15年で滅んだ（B.C. 207年）。＜大辞林国語辞典より＞　映画
『始皇帝暗殺 (1998) 荊軻刺秦王／ THE ASSASIN ／ THE FIRST EMPEROR 』より時代設定は少し前だと思うが、暗殺をめぐる内容は似ている。しかし、イメージは全然違う。この『英雄』はスケールが大きく、美しく、芸術的、幻想的。私は『英雄』のジェット・リー様を"観たくて"（物語が解ろうが解るまいが！）観てきたわけなので、台詞は中国語だったから詳しい事はホントに理解できなかった。その点、ご承知おきを…。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第06段落】　　青空を背景に真っ白な雪の山脈、その上を流れる雲の動きが影を山脈に映し出す。美しい映画の予感。騎馬兵達の行進に護衛されて、一台の馬車が行く。乗っているのは、秦国の地方士官の武士「無名」（ジェット・リー）だ。「無語」とも言われる。英語では、文字通り Nameless や The Silencer と表示される。無名は黒づくめの衣装。コートみたいな着物も、帯も、スパッツみたいなズボンも、履物も、そして、あとから与えられるハチマキのような布も、みんな見事に黒い。黒はジェット・リーの好きで似合う色であるし、ずっと押し黙って重く演じるには黒が適しているからだろう。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第07段落】　　無名はこの十年間、剣術を研究して鍛錬に励み、秦国王の命を狙っている刺客達「殘劍」「飛雪」「長空」を仕留めたのだ。それを報告しに秦宮殿に向かっている。この三人の暗殺者達を殺せば、秦国王に一対一で謁見できるし、報酬として莫大なご褒美がもらえることになっている。一行は秦宮殿に到着した。広い敷地で、正面に幅広く何段も階段のある宮殿は北京の紫禁城（
『シャンハイ・ヌーン (2000) SHANGHAI NOON 』等）かと思ったが、別物だった。ここは『始皇帝暗殺』撮影のために建てられたセットで、歴史的検証の上の春秋時代（B.C. 771 - B.C. 221 ）と秦帝国 (B.C. 221 - B.C. 206 ）の建築様式だそうだ。浙江省（チョーチャン Heng Dian, China ）の浙江スタジオ（オリエント・ハリウッド Orient Hollywood ）にある大規模なもの。浙江省は「浙」と略称され、華東地区の中部に位置すると勉強できた。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第08段落】　　数千人の兵士がじっと見守る中（ＣＧだろうか？それとも人件費の安い中国のエキストラか？）、一人、王宮に歩みを進める「無名」。贈り物のような長い箱を王の部下に渡す。それらは、「殘劍」「飛雪」「長空」を討って入手した彼らの愛用の武器なのだ。それが、彼らを仕留めた証拠となる。王はこの十年来、枕を高くして眠れなかった。今日からは枕を高くして眠れると、王の部下は無名の果敢な功績を労った。無名は先ず身体検査を受けて、武器を隠し持っていないか入念に調べられる。服を脱がされて頭髪の中まで調べられるが、ここで笑ってしまった。体を見せるのが嫌いな筈のジェット・リー様が初めて後ろ向きに裸になるのだが（もしかしたら代役？）ヒップは丁度兵士の頭で見えなくしているのだ。
『ソラリス (2002) SOLARIS 』のジョージ・クルーニーのお尻丸出しと何という違い！

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第09段落】　　いよいよ秦国王の政（チェン・ダオミン）との謁見室に参上する無名。板張りの大広間だ。この十年間、王は 100 歩の距離まで人を寄せ付けたことはない。その栄光を無名は受けて、謁見室の遥か向こうの端に座る。王は、十段の幅広い階段の上の王座に座っている。そして、十段の幅広階段には、蝋燭が一面に置かれている。照明の目的と、国王らしさの装飾の意味と、敵が直接襲って来られない防御のため、と推測する。何か褒美は欲しいかと王は無名に訊いているらしいが、無名は要りませんと答えている（何度も言いますが、解らないので、あくまでも私の推測）。でも、無名が持ってきた「長空」の銀色の槍を確認すると、もっと近寄ることを許可し、千金の褒美を与える。そして回想シーン・・・

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第10段落】　　・・・盲目の老人が楽器を奏でるところで、七人の武術家が一人の男に勝負を挑んでいる。この映画は、対戦するとき礼儀が非常にいい。一人、次は二人で、最後は四人で、その強い男に挑戦するが、全然歯が立たない。この男が「長空」（ドニー・イェン）で、オレンジ色っぽい茶色（大地のイメージ、ゴールデン・アース・トーンと言うそうだ）の着物姿。目つきがきつく、長い槍を扱う手つきは本物。ドニー・イェンはジェット・リー同様に武術のできる俳優として有名で、カンフー映画等に数々出演経験がある。近年ではジャッキー・チェン Jackie Chan （成龍）主演のハリウッド映画
『シャンハイ・ナイト (2003) SHANGHAI KNIGHTS 』にも出演している。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第11段落】　　さっきの七人が負けて並んで礼をして去り、帰り支度をする長空を、無名が呼び止める。ここで無名と長空の対決。このシーンはワイヤーをたっぷり使って、夢のような、そして二人の達人の息を殺した殺陣（たて）が堪能できた。ジェット・リーの剣とドニー・イェンの槍が火花を散らして交わっては離れ、本格的な剣術の緊張感が漂う。二人とも目を閉じては剣の動きを頭に描き、一瞬とも油断の出来ない真剣勝負に全身全霊を投入している。美しかったのは、ドニー・イェンが槍の先を回して、水滴も沢山グルグル回って一種の壁になり、そこを貫いてジェット・リーの剣が長空を突き刺すシーン。この序盤の二人の戦いは非常に力強くて印象深かった。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第12段落】　　また秦国王の謁見室に戻る。「長空」を倒した「無名」の話を聞き終え、次は「殘劍」と「飛雪」から取ってきた二人の武器を王は見る。殘劍の武器は先端がなくなった剣だ。剣の刃は欠けているので、それが「殘劍」という名前の由来となっている。また、女性「飛雪」の武器の剣は、薄く長くタイプ。翡翠（ひすい）の柄がついているのがマークだ。因みに、「無名」の剣は、刃に風向きを表す穴が切り込んである。その穴に相手の剣を挿して相手の動きを止めることも出来る。秦国王は万金の褒美を無名の前に運ばせた。そして王から 10 歩の所まで無名を近寄らせ、話の続きを聞く。「殘劍」と「飛雪」のことを。回想シーン・・・

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第13段落】　　・・・砂漠を馬で走る「飛雪」（マギー・チャン）。ここはモンゴル内地 Inner Mongolia の砂漠地帯か。黄色い一面の砂漠が広大さを見せ付ける。この地で書道家をしている「殘劍」（トニー・レオン）も、その下女「如月」（チャン・ツィイー）も、恋人「飛雪」も、ここではみんな赤い衣装を身にまとっている。情熱を象徴する赤だそうだ。当時、二千年以上も前の大昔、紙がなかったから、書道は砂に書かれた。殘劍が一文字書く度に、下女の如月が砂を平らに延べ直す。西洋人が見たら、この砂文字は風変わりに見えるだろうナ。
『セブン・イヤーズ・イン・チベット (1997) SEVEN YEARS IN TIBET 』でラマ僧がカラフルな砂で曼荼羅を描いたのを、中国の侵略者が足で踏みにじる場面を思い出した。砂は、はかない。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第14段落】　　高山先生という老人の書道家がそこにおり、その屋敷で書道を研究しているようだ。殘劍は流水先生とも呼ばれているみたい。殘劍と飛雪は趙国の武術の達人でもある。趙（ちょう）は中国、戦国七雄の一つ（B.C. 403 - B.C. 222）で、晋の有力世族趙氏が韓氏・魏氏とともに晋の領地を三分して諸侯となり成立。山西省北半から河北省東南部を領有、武霊王の時最盛期を迎えたが、秦に滅ぼされた。＜大辞林国語辞典より＞

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第15段落】　　こんな時、砂漠では、二つの国（恐らく秦と趙）の軍が向かい合って争っていた。各軍、数千人はいるであろう兵士の大群だ。片方の軍は全員赤い旗をつけており、もう一方は黒い旗だ。「射！」の号令で、秦の軍が一斉に矢を飛ばす。面白いことに、人間が地面に急に仰向けに寝たかと思うと、両脚が弓の働きをして、物凄く強烈な矢を放つのだ。その数千本の矢は黒々と飛んで、遥か彼方の殘劍たちのいる書道教室？に降り注ぐ。教室の女子生徒たちは恐れおののいてパニック状態になるが、高山先生の落ち着けという声で、矢の雨の中を、座り直して砂の書道を続けている。飛雪は屋外に出て、剣で矢の雨を払いのける。その期間そこにいた無名も、飛雪のそばで矢を剣で払いのける。こんなシーンから、マギー・チャンの飛雪は剣の達人だと分かるのだ。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第16段落】　　トニー・レオンの流水先生つまり殘劍は、室内で、１～２メートルの大きな布（紙がない筈だから多分、布）に「劍」という漢字を赤く筆で大きく書いている。秦王を討とうという意志表示かな。このトニー・レオンは髭もあり長髪だが、ドニー・イェンの長空のような野性的・男性的な風貌ではない。ソフトで、繊細で、優男（やさおとこ）の雰囲気がする。だから、マギー・チャンの飛雪という心の恋人がいながら、下女の如月が優しく髪を梳かしながら意味ありげな微笑を浮かべると、如月と結ばれてしまうのだ。それを目撃した飛雪は嫉妬で狂い、殘劍を刺す。倒れる殘劍。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第17段落】　　銀杏だろうか、黄色の幻想的な森の中。「ご主人様の仇～！」と如月は飛雪と刀で戦う。ワイヤーで、二人の中国美人がそれはそれはミステリアスな動きで決闘を続ける。ここも非常に美しい場面。如月の武器は、三日月の形をした一対の剣だ。これは相当重かったそうで、細いチャン・ツィイーには大変だったという。秦国王の刺客となろうとしている飛雪の腕前は、当然、下女の身分の如月を上回り、如月は刺されて木の根元に崩れ落ちる。飛雪は恋人殘劍と如月の"一夜の情"を嫉妬して、こういう風に決着つける。ただし、デス、さっきの殘劍にしても、この如月にしても、死にはしないのだ。わざと浅い傷にしているってことかしら？ジェット・リーが語っているように、当時の戦いは礼儀と相手への敬意が尊重されたということだから。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第18段落】　　無名は飛雪とも対決するが、決着はつかない。また、周囲に円形に木片のような物が多数積み重ねられている部屋で、無名は殘劍と飛雪に、自分の剣術の秀でている様を見せ付けるシーンも凄い。薪（まき）か何かと思って観ていたが、そこは当時の図書館だそうで、周囲にある無数の薪のような木片は当時の本なのだ。孔子の書いた「春秋 Zuo Zhuan 」も置いてあったらしい。孔子は現代では「漢文」の授業で習う、大昔の人と思っているが、孔子が生まれたのはB.C. 551 だから、この映画の時代からはたった三百年前の著書なのか。この部屋で無名は、水を入れた器を上に投げ飛ばしている刹那に、周囲の木片の本を束ねている縄を全て刀で切る。勿論、目にも留まらぬ早業だから何が何だかわからないうちに、周囲の木の束はドサッと崩れ落ちるのだ。そこに、水を入れた器はこぼれないまま無名の刀の上に落ちてきて、チョコンと刀の先に止まる。こういう腕前を二人に見せて出て行くジェット・リーの無名。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第19段落】　　心の？恋人同士の殘劍と飛雪は、何度も剣で戦うので、ワケがわからないのだが、きっと、秦国王の暗殺の練習試合をしているのだと解釈した。ある日は、青い衣装と白い衣装の二人は岩山の砂漠で戦い、飛雪は殘劍を少し？刺す。ここのロケが敦煌（とんこう；トゥンホアン Dunhuang ）なのかもしれない。敦煌は中国甘粛省（カンスー Gansu ）北西部のオアシス都市。紀元前二世紀に漢の武帝が敦煌郡を置いてから西域交通路の基地として栄えた。＜大辞林国語辞典より＞　何かと当映画と比較される『グリーン・デスティニー』でも、このような西域の雄大な光景が印象的だった。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第20段落】　　次のシーンは、これもモンゴル内地かな、砂漠の真ん中で、秦の兵士達が円形に囲んで見守る中を、無名と、刺客の飛雪が戦う。無敵の強さを見せるジェット・リーと、アクション監督チン・シウトンが一番美しく振り付けたというマギー・チャンの剣の戦いは奇麗だ。ここは高地の為、酸素が少なくて、ジェット・リーととマギー・チャンは苦しいから、撮影はスローモーションで行ったそうだ。飛雪は負けて倒れる（でも死なない）。殘劍と如月は駆けつけるが、対戦はもう済んでいた。黄色い大地に横たわる飛雪。あとで考えると、この時、負けた飛雪の剣を無名が取ったのかな。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第21段落】　　この次が、『英雄』で最高に美しいロケ地、九寨溝（ Jiu Zhai Gou = Nine Villages Valley ）の矢竹海（ Jian Zhu Hai = Arrow Bamboo Sea / Cold Arrow Lake ）なのだ。九賽溝は 1992 年にユネスコ世界自然遺産 UNESCO WORLD HERITAGE に登録された、四川省（しせん Sichuan ）南西部の秘境の地。以前にＴＶの某番組で見て、何という美しさ、と感動した所だ。それを映画で観られるなんて最高！九賽溝という名は、溝（峡谷）にある九つのチベット族の古い寨（村）に由来するという。エメラルドグリーンの湖面と、滝と、織物のような複雑な色の樹林とが、この世のものと思えないほど本当に美しかった。矢竹海というのは、ジャイアントパンダ giant panda の好物である唯一の竹の種類である矢竹、別名、冷矢竹（ Gelidocalamus fangianus ）と中国モミの木に囲まれているから、そういう名称らしい。この夢のように幻想的な名勝を、実際に行って、見てみたいなぁ。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第22段落】　　この湖の中央に、東屋（あずまや）をセットで建てて、傷ついた飛雪がそこに横たえられている。無名と殘劍は飛雪を祀るために、この湖の"上"で対決する。公開前から一番有名なシーンだ。二人はワイヤーアクションでヒョーイヒョーイと湖面の上を飛んで戦い、或いは頭と足を逆さまに、湖に垂直になって、剣で湖面をかすって戦ったりして、大きな見せ場だ。この時、剣から飛び散った水滴が一滴、寝かされている飛雪の方に飛んで行く。それを見た殘劍は、その水滴をぬぐう為に飛雪のいる東屋へ。たった一滴…。それが飛雪の頬を伝うのを優しくぬぐう殘劍は、心から飛雪を愛しているのだ。それを認めた無名は、殘劍に敬意を払って去り、ここでの勝負はお預けとなった。殘劍の方も、手を組んで敬意を払った見送り方をする。その少し後で、殘劍の下女の如月が「主人の刀です」と言って、馬車で去って行く無名に手渡す。もう、あの矢竹海での戦いで降参しました、ということなのだろうナ。こうして無名は、降参した殘劍と飛雪の剣を手に入れた。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第23段落】　　秦国王の謁見室のシーンに戻る。殘劍が筆で書いた赤い「劍」という漢字の布も、無名が持ち帰って、さっき王の背景の壁に吊った。王の前の蝋燭の群れが、突然、炎が揺れた。殺気を感じる秦国王…。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第24段落】　　・・・また回想へ。髭を剃った殘劍と飛雪が緑の衣装で、白い数筋の滝をバックに戦っている。髭を剃っているということから、秦国王暗殺は近いのか。身の整理をしているわけだろうから。ここでも二人が戦っているというのはホントに解らなかったのだが、これも暗殺の剣術の練習と勝手に解釈した。滝は Nuorilang Falls という所のロケか？幾筋もの白い滝が幅広く落ちてくる景勝地。それに、山々が尖がってポッコリとしたのが幾つも見えた。こういう山は桂林（けいりん；グイ・リン Guilin ）でよく見るが、ここは全然違う場所なのだろう。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第25段落】　　そして、緑の着物の殘劍と飛雪が秦国王の宮殿を急襲するシーン。このたった二人の侵入者を、三千人もの王の護衛の兵士達は防御できない。それほど二人の剣術は強いのだ。王宮の入り口まで辿り着き、マギー・チャン扮する飛雪は入り口で兵士達と戦い続け、中に入るトニー・レオン扮する殘劍の"援護射撃"をする。上から吊るされた巨大カーテンのような彩色豊かな布が、神秘的に揺れ動く。殘劍は目の前に秦国王を見る。そして戦うが、王も強い。王は最高に上等の剣を使っているし。殘劍は言う。七国が戦い合い、百姓は困窮している。天下統一が必要だ、と。・・・

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◆ここからは、結末まで書いていますので、ストーリー全体が分ります。御注意下さい。
　ATTN: This review reveals the movie content. Please don't say that I didn't say !

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第26段落】　　そして、今、殺気を感じ取った王は、十段の階段下の無名に剣を投げつける。護衛の兵士達は駆け寄り、いつでも無名に矢を射る体勢を整えた。蝋燭の炎が揺れた。無名は跳び上がって、空中を舞って王に突進し、王の首に刀の先を当てた。しかし、・・・当てたのは刀の柄（つか）の方だった。何故…？無名はここで絶対に王を殺せたのに、殺さなかった。秦王の政が始皇帝となって天下統一するのがいい、だから、殺してはならないのだ、と無名は最後に決心したのだ。結局、「長空」、「殘劍」、「飛雪」を負かして彼らの武器を王に届けて王の信頼を獲得し、謁見を許された自分が刺客となることができたのだが…。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第27段落】　　砂漠の岩山の上で、白い衣装の殘劍と飛雪が戦う。殘劍は飛雪に刺され、岩の上に座って動かなくなる。それを認めた飛雪は、泣きながらその刀を自分の体にも押し当てて、二人は重なって死んでいく。この白い衣装は死に装束という意味だろう。結局、この二人は無名が直接刀を当てなくとも、無名が勝負で勝っていたので、負けを認めて、自分たち愛し合う同士で命を絶った。無名は十年間の修行で、「長空」を剣術で負かす実力もつけたし、恋人同士の「愛」という、剣よりも強い武器を利用して死に至らせる術も修得していたのだった。これがこの映画で一番訴えたい事らしい。下女の如月は追いかけてきて、主人達二人の静かで動かない姿を見て泣き叫ぶ。一番若手のチャン・ツィイーらしい熱い終わり方だ。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第28段落】　　それで、無名は？ンーん、ここからはどうぞご自分で観て下さい。映画完成までに、この終わり方は幾通りものプロットがあったそうだから、ここで簡単にバラさない方がいいでしょう。最後のシーンは、万里の長城だ。B.C. 221年、天下を統一した始皇帝は、黄河を根拠地として万里の長城を築いた。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第29段落】　　タイトル「英雄」とは一体誰のこと？英語題では単数形 HERO だから、捉え方によって誰か一人を英雄と考えろ、ってことだろうと思うが、実際、主要登場人物みんなが英雄 HEROES だと思ってもいいらしい。始皇帝となって天下統一の野望を抱く秦王の政は英雄。秦王を暗殺しようとしていた武術に秀でた長空の英雄。秦国王の天下統一を阻止する為に刺客となる、趙国のカップル殘劍と飛雪は英雄。三人の刺客を討ち、結局秦王に天下統一を果たさせた秦国の武士、無名は英雄。こういうストーリーだと思う。でも、やはり単数形にこだわるなら、刺客達を討ったのにも拘わらず、自らが「無」の境地まで昇華して始皇帝に天下統一を果たさせた「無名」ジェット・リー。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第30段落】　　ベルリン国際映画祭の 2003 年アルフレード・バウアー賞をチャン・イーモウ監督は獲得。ゴールデン・グローブ 2002 年外国映画賞（中国）ノミネート。アカデミー賞 2002 年外国語映画賞もノミネートされたが、惜しくも受賞は逃した。でも、集客力の面では大成功しているので、製作陣は満足とか。それに、ジェット・リーがアカデミー賞に関与しただけでも大進歩だ。この『英雄』はハリウッド映画でなくて香港／中国映画だから、どうしたって資金がアメリカと比較すると少ない。
『ウインドトーカーズ (2002) WINDTALKERS 』の製作費１億ドル（＄１＝￥ 110 換算で約 110 億円）、
『オースティン・パワーズ　ゴールドメンバー (2002) AUSTIN POWERS IN GOLDMEMBER 』の製作費 69 億円、それに『ロード・オブ・ザ・リング／二つの塔 (2002) THE LORD OF THE RINGS: THE TWO TOWERS
』の化け物的な約 103 億円というハリウッド映画と比べたら、中国史上最高と言われる『英雄』の 33 億円は負けるよネェ。

【ジェット・リーのＨＥＲＯ　第31段落】　　それでか知らないけれど、『英雄ＨＥＲＯ』のジェット・リーは、 $5,000,000 （５億５千万円）と提示された出演料を $3,000,000 （３億３千万円）でいいって遠慮したとか！ジェットは『ザ・ワン　(2001) THE ONE 』の出演料が $7,500,000 （８億円強）で、今 2003 年では $10,000,000 （ 11 億円）くらいという噂だが、 $20,000,000 （ 22 億円）という
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン (2002) CATCH ME IF YOU CAN 』のレオナルド・ディカプリオ Leonardo DiCaprio 等の米国人俳優くらいにますますアップするよう、ファンとして応援してま～す。ところが、武術家俳優としてのジェット・リーのファンな私を心配させるのが、ジェットのこれからの道。アメリカでプロデューサーをしていくのが夢で、出演映画もアクションなしでいこうとしているらしいのだ！絶対、今の路線を変えないで欲しいナ！

以上。
＜もっと詳しく＞からスペースを含まず10789文字／文責：幸田幸

参考資料：「映画の森てんこ森」映画タイトル集
　　　　　　　http://www.coda21.net/eiga_titles/index.htm
　　　　　　IMDb
　　　　　　allcinema ONLINE
　　　　　　Nostalgia.com
　　　　　　CinemaClock.com
　　　　　　公式サイト（英語版）
　　　　　　http://www.herothemovie.com/
　　　　　　Jet Li Fan-Page
　　　　　　http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Stage/
　　　　　　Searchina
　　　　　　http://news.searchina.ne.jp/2001/1123/entertainment_1123_001.shtml
　　　　　　リーダーズ･ダイジェストインタビュー１
　　　　　　http://www.honey.ne.jp/~lianjie/RD1.html
　　　　　　≪英雄≫＋＋＋暗殺者の悲哀
　　　　　　http://duiduihe.magical.gr.jp/master/tony/hero.html
　　　　　　中国通史
　　　　　　http://www.h3.dion.ne.jp/~china/
　　　　　　浙江省地図
　　　　　　http://www.jcbus.co.jp/chinahotel/map/zhejiang/
　　　　　　Donnie Yen !
　　　　　　http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Stage/2114/donnie2.html
　　　　　　秘境の旅　中国・四川省
　　　　　　http://www.hankyu-travel.com/tokyo/asia/china/shisen/
　　　　　　WORLD HERITAGE ACTIVITY
　　　　　　http://www.unesco.jp/contents/isan/shoukai_index.html

いつも参考にしておりますallcinema ONLINE さんには、2003年02月21日の時点で[ 解説 ]は出ていませんので、これをアップしました。Thanks to allcinema ONLINE.

■映画『ＨＥＲＯ』の更新記録
2003/02/21新規：ファイル作成
2004/07/07更新： ◆テキスト一部とリンクおよびファイル書式
2004/12/27更新： ◆一部テキスト追記と書式変更
2005/03/31更新： ◆データ追加
2005/10/06更新： ◆追記
2006/01/28更新： ◆データ追加

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幸田　幸
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